(2022.06.22, 29, 7.06) 教職大学院「カリキュラム開発の実践的研究」

 教職大学院「カリキュラム開発の実践的研究」で私が担当した3回についてまとめておく。カリキュラム・マネジメント等で重要な視点となると考えているからである。

6/22 「開かれた学校」を推進するカリキュラムの理論的検討

 本時では、カリキュラム開発の基盤となるタイラー原理を解説した。

  • いかなるカリキュラムを開発する場合でも,以下の4つに答えねばならない。
  • A.学校はどのような教育目標を達成しようとするべきか
  • B.その目的を達成するために,どのような教育的経験を与えることができるか
  • C.教育的経験はどうすれば効果的に組織することができるか
  • D.その目的が達成されたかどうかをどのように判断するか

    Tyler, R. W. (1949). Basic principles of curriculum and instruction. Chicago, IL: The University of Chicago Press

 グループワークとしては、A.に関して、「学校は社会を改善しようと試みる若者を育成する革命的ミッション」(p.35)を学校で取り組むならばどのような学習経験が必要かを検討してもらった。また、B.とC.に関して、「主体的な学び」に関する児童・生徒の姿をグループで検討した上で、どのような働きかけが必要となるかを考えてもらった。

6/29 カリキュラムと児童・生徒の学習経験

 本時では、「学習経験」を考えるためにデューイの考え方と実践を紐解いた。「学校そのものが,社会生活というもののすべての点において,社会生活でなければならない」「学校における学習は,学校の外での学習と連続していなければならない」(『民主主義と教育』)という考えに基づき、デューイスクールの実践がスタートした。学校建築の工夫とオキュペーションへの焦点化を確認した上で、『デューイ実験学校におけるカリキュラムと学校運営』(伊藤 2010)に掲載されていたデューイのカリキュラム構想と学年での具体的実践を踏まえて、グループでポイントを抽出してもらった。
 カリキュラムにおける学習経験を考える上で、4つの視点(明示的、暗黙的、Null、カリキュラム外)から批判的に考える視点を提起した。特に”Null”について、カリキュラムで扱われていないことの問題点について共通理解を図った。
  最後に、『デモクラティック・スクール 』に示された「民主主義的学校の価値観と原理原則」(ビーン ジェームズ・A, アップル マイケル・W./澤田稔(2014)を確認し、米国における実践事例を紹介した。日本において「民主主義」が”Null curriculum”になっていることに気づいてもらうことが主たるねらいであった。

First-Class Citizens: Civics Isn’t Just a Class

7/6 子どもの権利とカリキュラム開発

 本時では、事前課題として、「子どもの権利条約」を読んできてもらっていた。
 授業の冒頭で、「子どもの権利条約」の主眼となる点を確認した上で、グループに分かれ、日本において実現できていない点を洗い出していった。それを踏まえつつ、「権利を知らせる責任」(子どもの権利条約第42条)について、米国における建国の理念を踏まえつつ共通理解を図った。
 日本における現在の学習指導要領を紐解いてみると、「民主主義」という言葉は記されているが、それを具現化することについての記載がない。1947年学習指導要領(試案)においては、民主主義の重要性が明記され、1951年改訂の「教科以外の活動」では児童会、学級会における民主的実践が明示されていた。現在、日本においては、学校以外の部分で実践されたものもある。

僕らがちんじょうしたわけ

 一方、海外における「シチズンシップ教育」においては、民主主義社会における市民としての実践を学ぶことが期待されている。13歳から14歳を対象のシチズンシップに関する知識と理解を問う質問紙調査(2009) には、政治生活や抗議活動への参加についての行動が示されている。諸外国においては、Friday for Futureに代表される生徒の異議申し立てや社会的行動が実際に行われている。

Students Take to the Streets for Day of Action on Climate Change

 この点について、日本でも”agecy”がOECD Education 2030などで紹介されるようにはなっているが、その本質がズレているのではないかということを確認した。Priestley et al.(2012)は「問題状況に対して批判的に応答を形成」できる行為者の資質と定義しており、生徒たちは学校やより広いコミュニティにおいて積極的な社会行動者として行動する機会が十分与えられていないと指摘されている(Bahou 2012)。
 「主体性」を考えるにあたって、その次元で捉えられているかどうかを吟味する必要があるはずだが、授業における狭い次元で捉えられているのが日本における課題であることを最後に指摘した。

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