(2022.09.10-9.11) 日本教育工学会秋季全国大会

 9/10と9/11の2日間にわたって開催された日本教育工学会秋季全国大会に現地参加した。秋季大会はポスター発表とシンポジウム等で構成されているが、ポスター発表については現地とオンデマンド開催、シンポジウム等はオンラインの配信も並行して行うというハイブリッドで開催された。重点活動領域の企画セッションに参加する必要があったため、前日の夜に川崎入りした。

 9/10の10:10-11:10が企画セッション1「JSETにおける重点活動領域」であり、重点活動領域についての全体的な説明を行った後、各部会での取り組みを紹介するのが主な内容だった。学習評価部会としては、これまで3回の研究会を行ってきたので、その概要を紹介しつつ、今後の方向性について説明した。
 各部会のメンバーについては、Slack等で情報共有もできているが、対外的に発信する場として重要だっただろう。
 引き続き、一般研究発表1・2のコアタイム2でポスター発表を回った。久々に会う研究者の皆さんともご挨拶ができ、対面開催の重要性を改めて感じた。

 午後からは、全体会の後、シンポジウム1「AI活用・教育データの利活用とその課題」であった。キーノートは、マイクロソフトの安田クリスチーナ氏が自身の歩みと仕事について話題提供を行った。キーノートとしては異色な内容ではあったが、非常に学ぶべきところが多いものであった。パネルディスカッションとなったが、政策的推進と現在の研究推進の2者、憲法学の立場と諸外国における社会正義の視点から見た批判的立場(いずれも推進を否定するものではない)の二極に分かれるものとなった。これまでのシンポジウムの傾向として前者に偏りがちだったが、後者の視点がより際立った点で非常に見どころがあった。

 9/11の一般研究発表3・4についてはコアタイム3・4いずれもポスター発表を回っていった。オンラインでもある程度議論はできるが、やはりちょっとした投げかけについては対面だからこそできるものはあるだろう。

 最終のプログラムであるシンポジウム2「先進的な研究と教育実践の開発・成果の普及を両立させるために〜ポストGIGAスクール時代の研究を目指して〜」では、第2部に登壇の機会を与えて頂いた。
 第1部「GIGAスクール構想の実践的展開に見る教育現場と研究者のパートナーシップ」では、スマート農業のカリキュラム開発に関する共同研究と全市を挙げた共同研究というスケールの違いはあったが、それぞれ現場の先生方にも研究的実践の意義や価値が伝わるものだっただろう。
 第2部「ポストGIGAスクール段階で求められる研究」では、重点活動領域のメンバーとして、情報教育部会から信州大学の森下先生が、学習評価部会からは私が話題提供を行った。学習環境部会からは三井先生が第1部に引き続き登壇し、ファシリテーター的役割を担って頂いた。
 森下先生からは、情報教育部会が行った教員志望学生に対するICT活用に関する意識調査の結果が報告され、今後検討すべき視点について問題提起がなされた。私の話題提供については以下まとめておきたい。

 本発表では、「ポストGIGAスクール段階で求められる 学習評価研究」をテーマに以下の4つの視点を今後検討する必要について問題提起した。

  • (1)真正の評価からみた学習そのものの問い直し
    日本においてもその言葉自体は用いられているが、「真正」を追求した実践はまだ十分見られない。具体例として、『パワフル・ラーニング』所収の「サバクツノトカゲ」の継続的な追跡調査と経済的に厳しい地域における1人1台のSTEAMに関する先駆的実践を紹介した。意味ある文脈を準備し、その実践に学問内容(各教科等)が埋め込まれ,かつそれらを評価するための仕組みを組み込むことは不可欠である。

  • (2)学習評価の基盤となる「コンピテンシー」の問題
    2017年の学習指導要領改訂は「コンピテンシー・ベース」の改革と言われる一方で、諸外国のそれとは大きく異なる。一例として、オーストラリアにおけるカリキュラムの構成を確認した上で、コンピテンシーにあたる、個人的・社会的能力の「コミュニティの自覚」と教科内容である人文・社会科学の「市民・シティズンシップ」として示された内容を紹介した。一方日本では、「理解する」「考察する」「考え,表現する」といった記述に留まっている。

  • (3)学習評価を学習する機会の不足
    教育職員免許法施行規則において、学習評価を学ぶ科目が規定されていない。もちろん、教職課程コアカリキュラムにおいては,各教科・保育内容の指導法,教育の方法及び技術等で学習評価を扱うことが規定されているが、体系的に学習する機会は保障されていない。一方、オーストラリアにおける専門職スタンダードにおいては、学習評価に関する内容が規定されており、学卒・正規採用・熟達・指導的役割で何が求められるのが明示されている。

  • (4)学習評価が目指すべき方向性
    シンポジウム1とも連動するが、GIGAスクールによりデータがより収集されやすくなり、個別最適な学びとして期待される状況にある。Gardnerほか(2009)は、社会正義の視点から学習評価を吟味することを提起している(Gardner, J., Holmes, B. and Leitch, R. (2009) Assessment and Social Justice. a Futurelab literature review: Report 16)このような視点を踏まえつつ、学習評価を構想していくことが一層求められることを確認した。

 大枠の話になってしまったが、こういった視点を学会で検討することを話題提供できたことは意味あるものだったと思っている。今後も議論を進めていきたいと考えているので、是非学習評価部会やその他の機会で対面・オンラインの議論に参加してもらいたい。

 オンラインがもたらすメリットを感じつつ、やはり対面開催での議論の密度等は替えがたいものがある実感した2日間であった。

カテゴリー: プロジェクト関連情報, 研究関連情報 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください