『パワフル・ラーニング』発売開始

 5/26に編訳本『パワフル・ラーニング』が一般発売された。原著に出会ってから、大変素晴らしい本で何としても翻訳したいと思っていた。
2015年に出版社との交渉を開始し、2016年度約1年間をかけて共訳者と共に翻訳を進めてようやく実を結んだものである。
 オビにある「表層的で形骸化されたアクティブ・ラーニングを超えて」はあえて付けてもらったものだ。世に飛び交う「アクティブ・ラーニング」を批判的に検討する鏡となる一書であることは間違いない。

 学習科学の知見等、数百の先行研究に基づいて指導方略、カリキュラム、評価のあるべき姿を描き出している。日本における「アクティブ・ラーニング」に関する文献でこれだけの先行研究を紐解いた文献は皆無に等しいだろう。
 特に今の「アクティブ・ラーニング」が指導法や形態のレベルの議論が中心になっている中、本書の核は「学問」(教科)の本質から考えることがテーマとなっている。
 とりわけ「数学教育」や「科学教育」が国際的にいかなる観点で論じられているかは、日本における教科教育の問題点を浮き彫りにするものであるだろう。

 学習指導要領改訂において「社会に開かれた」というキーワードが掲げられているが、本書の核は「真正性」である。「社会に開かれた」というテーマを考えるにあたって、「真正の活動」「真正の学習」「真正の評価」とは何かがわかる具体的な事例が本書にはふんだんに盛り込まれている。
 「真正性」は日本でもこれまで紹介されてきた言葉であるが、本書を読めば次元が違うものだと分かるはずだ。日本の「教室」や「授業」で取り上げられてきた「文章題レベル」の「現実」ではなく、例えば科学を学ぶためには「科学者」にならねばならないことを本書は示している。
 それに関する探究ベースの具体例がいくつも紹介されている。日本でもプロジェクトベースの実践があるが、本書で実践されているレベルのそれはどこまであるだろうか。

 『21世紀型スキル』等類書もあるが、本書の優れた点は、児童・生徒の実践の具体が見えることである。本書は、Edutopiaと連動したものであり、実践の様子を動画で見ることもできる。動画は英語であるが、教室環境や実践のイメージがつかめるというのはこれまでにないものだと言える。
☆動画一覧についてはこちらのページから 『パワフル・ラーニング』動画一覧

 訳書としての特色の1つが、訳註である。可能な限り訳註を本文に入れており、本書の内容理解を促すように心がけている。
 もう1つの特色が索引である。本書のキーワードに関して索引で取り上げただけでなく、それらが掲載されたページに関してはほぼすべて参照できるようにした。例えば、「カリキュラム」という語は頻出しているのだが、それが登場するページを網羅している。それゆえ、カリキュラムがどのような文脈で用いられているかが索引からも掴むことができる。
 そして、編訳者として「はじめに」と「おわりに」も紙幅をとり、本書をどう位置づけ、これからの教育において何が求められるのかを論じたのも特色の1つとして挙げられるだろう。

 まず本書を手に取って頂き、そこに広がる豊かでクリエイティブな学びの世界、子どもたちの可能性等を読み取ってもらいたい。本書を読めばワクワクするような学びの楽しさを感じることができるだろう。

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