(2021.10.14) 教職大学院「資質・能力評価の探究」第2回で扱った内容

 今年度から教職大学院は新カリキュラムとなり、私が主担当で「資質・能力評価の探究」という科目を新規に開講している。今後各回の内容を詳述することはないが、第2回については、対外的にも考えてもらいたい要素がいくつもあるため、このページで情報提供することにした。

 本時は、「21世紀型スキル等,諸外国における『資質・能力』をめぐる議論」がテーマであった。2017年の学習指導要領改訂の議論で、諸外国における資質・能力に関する改革が紐解かれていたが、それらを十分受容できていないというのがテーマを設定した理由である。

 まず21世紀型スキルの議論を概説しつつ、その具体的な内容を押さえた(詳細については私も分担として携わっている『21世紀型スキル』(北大路書房)参照)。それからシンガポールにおける実践を動画で視聴した。

Singapore’s 21st-Century Teaching Strategies

 動画は今から9年前のものであるが、Twitterで意見を共有したり、仮想空間での美術作品を回ったりする実践が記録されており、今から見ても非常に学ぶべきところが多いものである。

 続いて、オーストラリアのカリキュラムの構造について概説した。オーストラリアでは、学習領域(教科)、汎用的能力、クロスカリキュラムの要素でカリキュラムが構成されている(出典:https://www.australiancurriculum.edu.au/f-10-curriculum/structure/ ページ構成上、本文の最後に掲載している)。
 オーストラリアは、「汎用的能力」(General Capabilities)という言葉を用いており、コンピテンシーとは表現していない。しかし、内容としてはコンピテンシー・ベースのカリキュラムで構成されていると言えるだろう。こちらのページで確認できる通り、リテラシー、ニューメラシー、ICT能力、個人的・社会的能力、倫理的理解、そして倫理的理解の領域において、具体的な項目、発達段階ごとに何ができるようになるかが明記されている。他例えば、「個人的・社会的能力」の「感情を認識する」というサブ要素のレベル1aでは、「自身の感情を認識し、同定する」という段階から発展的に構成されている(https://
docs.acara.edu.au/resources/General_capabilities_-PSC_-_learning_continuum.pdf)。
 2017年の学習指導要領改訂が「コンピテンシー・ベース」と表現されることもあるようだが、諸外国において「コンピテンシー・ベース」とはこのようなカリキュラムを指すものである。それから見れば、「資質・能力」というキーワードが掲げられながらも、あくまで教科ベースでカリキュラムが構成されている日本はそれにあたるとは言えないだろう。

 最後は、OECDにおける、キーコンピテンシーからOECD Education2030の議論を紹介した。まず、1997年から2003年にかけてのDeSeCoプロジェクトでキー・コンピテンシーが議論されていたことを押さえ、OECD Education2030の中でもLearning Compus、Student Agency、Transformative Competenciesについて焦点化した(出典:https://www.oecd.org/education/2030-project/teaching-and-learning/learning/transformative-competencies/Transformative_Competencies_for_2030_concept_note.pdf)。
 OECD Education2030の議論については、
白井俊(2020)OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来(ミネルヴァ書房)に詳しく記されているので参考にしてもらいたい。

 その1つのキーワードが、「生徒のエージェンシー」(Student Agecy)である。それは、「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力」、「誰かの行動の結果を受け止めることよりも,自分で行動することである。形作られるのを待つよりも,自分で形作ることである。誰かが決めたり選んだことを受け入れるよりも,自分で決定したり,選択することである」(OECD2019/白井 2020)と定義される。
 本時の最後では、その認識の差異を日本と海外の実践を比較して検討してもらった。日本については、「OECD 学びのコンパス2030」に対応した授業事例のショートビデオ」が公開されており、「児童・生徒の「エージェンシー」全般の育成を目指した事例」が含まれていたのでそれを視聴した。
 海外の例については、OECDではないが、社会変革を志向した実践として、マイケル・フラン等がリードする「ディープラーニング」の実践例を取り上げた。–Wooranna Park小学校における「エニグマ・ミッション」ではまず、–読み書きの基礎として,『ハンガー・ゲーム』『わたしはマララ』等の教材を読み,対話的に思考を深め、–人種差別,貧困,変化を引き起こす人々について学習・ディスカッションを行った。そこから、–探究と深化の学習を経てプロジェクトへホームレスの実態、難民の生活環境等の実地調査等を薦め、–エニグマ・アクションとして、移民のための英語レッスン、無料食堂でのボランティアに参加するという現在目の前にある社会問題を解決するための一歩を児童が踏み出すのである。
 本事例については、マイケル・フラン他『教育のディープラーニング』明石書店に所収されており、Wooranna Park Primary School – Enigma Mission EvolutionとしてYouTubeで動画を視聴できる。

 OECD Education2030に関しては、日本でも一定の関心が寄せられ、「エージェンシー」という言葉が様々なところで取り上げられるようになってきた。しかし、非常に限定された「主体性」として語られることが多く、前提としての「変化」「責任」「行動」が諸外国とズレているではないかと問わねばならないだろう。

 本時の内容は、以上の通りである。様々なところで議論の材料とせねばならないものなのでWebで公開し、情報発信しておく。

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